通常の健康な便は水分が70~80%程度ですが、何かしらの理由で水分が多いままになり、便中の水分が80%を超えるとドロドロの軟便、90%を超えると水様便(下痢便)となります。
下痢が続く期間によって、2週間以内に治まる場合は急性下痢、4週間続く場合は慢性下痢と分類されます。
下痢が起こる原因は様々で、明らかに食べ過ぎや飲み過ぎで一時的に起こるものもありますが、原因不明の下痢が長く続く場合、何かしらの疾患の症状として下痢が現れている場合もあります。
下痢の種類
浸透圧性下痢
過度なアルコール摂取や脂質の多い食事が原因で起こります。人工甘味料(ソルビトール)やキシリトールといった添加物が原因となることもあります。
分泌性下痢
感染症(細菌やウイルス)などの影響で起こることが多いですが、食物や薬剤アレルギーで起こることもあります。
蠕動運動性下痢
大腸の蠕動運動が亢進しすぎて、便が結腸を異常に早く通過してしまうと、水分が吸収されず下痢となります。自律神経の乱れや甲状腺疾患などが原因で起こります。
滲出性下痢
クローン病や潰瘍性大腸炎などが原因で起こります。
下痢の原因
急性下痢
下痢の症状が数時間~2週間で治まります。
感染性腸炎と非感染性腸炎に大別されます。
急性下痢の約9割は細菌やウイルスへの感染で起こる感染性腸炎です。
夏場は細菌による腸炎が増加し、冬場はウイルス性腸炎の発症が増加します。ウイルス性大腸炎は強い感染力を持っているため、感染拡大を防ぐためにもできるだけ早めにご相談ください。
非感染性腸炎の原因として、暴飲暴食(アルコールや脂肪のとり過ぎ)や、牛乳など乳糖を含む食品、甘味料、お薬の影響などがあります。
慢性下痢
下痢の症状が4週間以上続く場合は、慢性下痢と呼びます。
主な原因として
- 潰瘍性大腸炎やクローン病などの難病指定されている炎症性腸疾患
- ストレスや生活習慣によっておこる過敏性腸症候群
- 大腸がんなどの腫瘍
- お薬の影響
- 甲状腺機能亢進症や膠原病
などがあります。
下痢がなかなか治らない場合は、すみやかに治療すべき病気の有無をチェックする必要があります。
下痢を引き起こす病気
ウイルス性胃腸炎
ウイルス性胃腸炎は、ノロウイルスやロタウイルス、アデノウイルスなどが原因で発症します。
主な症状は、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢、発熱などで、特に吐き気や嘔吐が強い場合には水分補給が難しくなり、脱水症状を引き起こすことがあります。
冬場は空気が乾燥するため、感染が広がりやすく、発症が増える傾向があります。こまめな水分補給と適切な衛生対策が重要です。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や膨満感、おなら、便秘、急な便意や下痢、または下痢と便秘を繰り返すといった症状が数カ月以上続く状態です。
大腸カメラで腸に異常がないことや、血液検査で内分泌系の病気が除外されると、IBSの可能性が高くなります。
これは腸の機能的な異常によって慢性的な腹痛や下痢が生じるため、生活習慣の改善や薬物療法が治療に役立ちます。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症が生じ、潰瘍を形成する疾患です。
主な症状は、血便、下痢、腹痛、発熱などで、症状が悪化と緩和を繰り返すことがあります。
原因は不明で、免疫異常や遺伝的要因が関与していると考えられています。
大腸カメラ検査で診断され、治療には免疫抑制剤や抗炎症薬が使われます。
放置すると重症化することがあるため、定期的な経過観察と早期の治療が重要です。
クローン病
潰瘍性大腸炎と同様に難病に指定されており、消化管全体に炎症が生じる可能性がある炎症性腸疾患です。症状には下痢や腹痛、体重減少などがあり、寛解期と再燃期を繰り返します。潰瘍性大腸炎とは異なり、クローン病は口から肛門までのどの部分にも炎症が起こる可能性があるため、食事制限や栄養療法が必要です。
適切な診断のために大腸カメラ検査が重要で、根気強く治療に取り組むことが求められます。
大腸がん
大腸がんは、大腸内にできたポリープががん化することで発症することが多く、進行すると下痢と便秘を繰り返す便通異常や血便が見られるようになります。
ポリープが大きくなると大腸の通路をふさぎ、症状が悪化することがあります。大腸がんの予防には、ポリープの早期発見と治療が重要です。
便通の異常や血便の症状が現れた場合、進行がんの可能性があるため、大腸カメラによる検査を受けることが大切です。
下痢の治療
急性下痢
ウイルスや細菌の感染が原因で起こることが多く、下痢止めや吐き気止めを使用すると体内の毒素が排出されず、症状を悪化させることがあります。
多くの場合、感染性腸炎は脱水を防ぐ対症療法で自然に軽快します。
重要なのは十分な休息と水分補給です。脱水が進んでいる場合は点滴が必要になることもあります。
細菌感染による重症の場合は、抗菌薬による治療が検討されます。非感染性の原因には、暴飲暴食や乳糖、甘味料、お薬の影響があり、これらの要因を避けることが治療の基本です。
慢性下痢
慢性下痢の原因を調べるため、まずは問診で症状や経過、内服中の薬、過去の病歴、ご家族に同様の症状があるかを確認します。
診察では聴診や触診を行い、必要に応じて血液検査、便検査、超音波検査、大腸カメラ検査を実施して、下痢の原因を探ります。特に大腸カメラでは、大腸の粘膜を詳しく観察し、炎症や腫瘍などの疑わしい病変がないか確認します。
病変が見つかった場合は組織を採取し、病理検査で診断を確定し、最適な治療方針を提案します。