腸内環境と整腸剤

~処方薬の整腸剤に関して~

「整腸剤」と聞くと、「お腹にいい薬」という漠然としたイメージをお持ちの方が多いと思います。
ですが、実は整腸剤と一口にいっても、含まれる菌の種類や作用の仕方はさまざま。お腹の調子を整えるためには、自分に合った菌を選ぶことがとても大切です。

本記事では、当院でよく使用する整腸剤(ビオフェルミン・ラックビー・ミヤBM・ビオフェルミン配合散・ビオスリー)について、菌の種類・働き・使用の目安を解説します。


◆ 整腸剤に含まれる菌の種類

処方薬としての整腸剤に使われる菌は、大きく分けて以下の4種類です。

菌の種類主な働き
ビフィズス菌乳酸や酢酸を産生し、腸内を酸性に保って悪玉菌の増殖を抑える
乳酸菌(ラクトミン)主に乳酸を産生し、腸内フローラを改善・腸粘膜を保護
酪酸菌(宮入菌)酪酸を産生し、腸の炎症を抑える・腸のエネルギー源となる
糖化菌(酵母菌)乳酸菌の増殖を助ける、整腸作用をサポート

腸内フローラ(腸内細菌のバランス)は人それぞれ異なり、生菌の定着や作用にも個人差があります。つまり、「この整腸剤が万人に効く」というものではなく、自分に合った菌を見つけていくことが重要なのです。


◆ 整腸剤ごとの特徴と使い分け

1.ビフィズス菌製剤:ビオフェルミン錠、ラックビー錠・微粒

  • 含まれる菌: ビフィズス菌(Bifidobacterium)
  • 作用部位: 小腸下部~大腸
  • 主な効果:
    • 乳酸・酢酸の産生により腸内を酸性に保つ
    • 有害菌の増殖を抑える
    • 腸管運動を促進して便通を整える
  • 使用の目安: 軽い便秘・軟便・日常的な腸の不調に

2.酪酸菌製剤(宮入菌):ミヤBM錠・細粒

  • 含まれる菌: 酪酸菌(Clostridium butyricum MIYAIRI 588)
  • 作用部位: 大腸
  • 主な効果:
    • 酪酸・酢酸を産生し、腸内環境を整える
    • 酪酸には腸粘膜の修復・炎症抑制作用がある
    • 胃酸・抗生物質に強く、併用が可能
  • 使用の目安: 抗生物質服用中の下痢予防・感染性腸炎の後・慢性腸炎の補助療法に

3.乳酸菌+糖化菌製剤:ビオフェルミン配合散

  • 含まれる菌: 乳酸菌、糖化菌(酵母菌)
  • 作用部位: 小腸下部~大腸
  • 主な効果:
    • 乳酸菌が乳酸を産生し、有害菌の抑制・腸粘膜の保護
    • 糖化菌が乳酸菌の増殖をサポート
  • 使用の目安: 軟便、腹部膨満感、食生活の乱れなどに

4.酪酸菌+乳酸菌+糖化菌製剤:ビオスリー配合錠・散

  • 含まれる菌: 酪酸菌、乳酸菌、糖化菌
  • 特徴:
    各菌がお互いの増殖を促進し合い、単独投与に比べて最大10倍の増殖が期待できる
  • 主な効果:
    • 相乗効果で腸内環境を多角的に改善
    • 炎症の鎮静、腸内フローラの正常化、腸管免疫のサポート
  • 使用の目安: 感染性腸炎の回復期・過敏性腸症候群(IBS)・抗生物質投与後の腸内リセット

◆ まとめ:整腸剤は“合う”ものを見つけるのが大事

整腸剤は“どれが一番効く”というよりも、“自分の腸に合ったものを見つける”ことが大切です。
製剤によって生きた菌の量や作用する場所も異なるため、体調や症状によって使い分けが必要です。

また、お腹の不調が続くときには、ただの腸内環境の乱れではなく、
大腸がんやその他の器質的疾患が隠れている可能性もあります。

特に以下のような場合は、整腸剤だけで様子をみるのではなく、一度しっかりと検査を受けることをおすすめします。

  • 便に血が混じる
  • 急に便秘や下痢のパターンが変わった
  • 体重が意図せず減少している
  • お腹の張りや違和感が長期間続いている

このような症状がある場合、大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)による大腸の精密検査が必要です。
当院では、鎮静剤を使用した苦痛の少ない大腸カメラ検査も行っています。気になる症状がある方は、早めの受診をご検討ください。